設立趣意書

 近年,学校現場において一斉形態の授業や学級活動が成立しないなど,集団教育という学校の機能が成立しない学級の状態,つまり,学級崩壊の発生が珍しくなくなっています。学級崩壊の状態まで悪化しなくとも,集団活動や一斉授業がスムーズに展開できないという例は,どこの学校でも見られることではないでしょうか。
 英米の学級集団は児童生徒個々の学習の定着に主眼がおかれ,学習集団としての機能体の面が主になっています。それに対して日本の学校教育は,固定された構成員で組織された学級を1つの単位として,集団指導する形態が主流であり,学級集団は知識や技能の獲得を目指す教科学習の場であるだけではなく,学級生活を通して行われる人格形成の場でもあります。つまり,学校教育のすべての目的が,具体的に統合的に展開される場が,日本の学級集団なのです。したがって,学級集団が教育的環境になっていない状況は,日本の学校教育では,教育活動の基盤を揺るがす問題なのです。
 例えば,学級集団の状態によって,児童生徒の学力の定着やいじめの発生率が大きく異なる,ということはすでに明らかになっています。また,平成19年度より本格的に実施され始めた特別支援教育の取り組みでも,特別支援教育を通常学級で良好に展開していくには親和的な学級集団の状態が求められることが指摘されています。児童生徒の学校適応面,心理社会面の発達や学習面は,所属している学級集団の状態に強く影響を受けるのです。学級内の児童生徒同士の間に建設的な相互作用が見られない状態の学級では,児童生徒たちの人間関係は非建設的になり,不登校やいじめなどを引き起こし,さらには,集団活動や学習活動に対する意欲の低下にもつながっていき,児童生徒の適応や教育効果も低いものになってしまいます。
 このような状況を受けて2006年の中央教育審議会の答申では,学級経営についての力量を,教員志望者に教員養成の段階から確実に身につけさせることを,答申の4つの柱の中の一つとして盛り込んでいます。しかし,2000年以降,学級集団や学級経営に関する研究は少ないのが現状であり,かつ,学校現場では,教師たちの学級経営の展開や指導行動のあり方について,一定の指針が見えず混沌としているのが実態ではないでしょうか。
 そこで,小・中・高・大学の教職員・カウンセラー・教育関係者のような学校教育に携わる人々と研究者が参集し,学級経営及びその近接分野における,集団や人間関係の相互作用を活用した教育や支援のあり方について,研究会や研修会を通して意見や情報を交換する,さらには,研究成果を発表しあう,そのような場として「日本学級経営心理学会」を発足させることにしました。日本の学校教育現場の問題に関して,実践に活用できる現実的な実践や研究の成果を,同じ志を持った者同士が共有しあい,それをさらに自らの実践や研究に活かすことで,結果として,日本の学校教育の向上に微力ながら貢献したい,という願いからです。

 趣旨をご理解いただける方々にご参加いただき,本学会を発展させることを通して,日本の学校教育の向上に寄与できることを切に願う次第であります。

平成24年1月吉日 「日本学級経営心理学会」設立準備委員会